サトウキビ、キビ酢はガン細胞を抑制する

山梨大学工学部

教授 三村精男

大学院 鈴木賢洋

自然発酵食品は身体によい

 

長寿時代になり成人病が若年層を含めて生活習慣病に名称が変わり、世の中の「食」そのものの存在が二分されてきている。時間に束縛されている人や学生は、ファストフードなどジャンクフードで全ての食事を済ませている。年配の人たちや健康志向者は、無農薬無化学有機肥料のオーガニック・ナチュラルフードを選択する。このような食生活のバランスの悪化が我々の人体を蝕む原因の一つであると思われる。このようなことから毎日の食生活が重要になってきた。

日常の生活における健康は食生活が基本である。食品の機能としては、「一次機能(生命維持)」、「二次機能(嗜好)」、「三次機能(健康促進)」が挙げられる。現代の飽食の時代において、生活習慣病を予防していくには、「三次機能」に注目していかなければならない。このような三次機能を満たす食品には伝統的な「医食同源」という考え方がある。

三次機能とは、生体調節機能から健康を維持し病気を予防する機能のことである。最近急速に研究が進められていて、様々な食品中に生体調節機能を持つ物質が見いだされ、病気予防への効果が報告されてきている。そして、これらの生体調節機能を持つ物質を含む食品が「機能性食品」である。すなわち、機能性食品とは、食品の持つ生体防御、体調リズム調節、疾病の防止と回復などにかかわる体調調節機能生体に対して十分に発揮するように設計されたものである。

 

奄美の自然発酵食品の健全性に注目

 

そこで、我々は自然醗酵食品の健全性に注目した。醗酵食品は様々な微生物の作用によって、原料穀物中の成分が変換され、生体ホメオスタシス維持に効果を与える物質に変化している。本研究では、自然醗酵食品の中から食酢に注目した。

食酢は醤油や味噌などとともに日常的にあり常用されている調味料である。食酢、醤油や味噌といった日本で発達した調味料は、いずれも複合微生物醗酵技術による日本独特の醗酵調味料である。その中でも最も古い醗酵調味料が食酢である。近年、伝統的な醗酵酢には薬効のあることが認識され、ダイエット食品など健康食品として位置づけられるようになった。このことは調味料としての二次機能より、健康食品としての三次機能(薬効)への注目を意味している。

これまでの我々の実験報告により日本産の黒酢の原料は、サトウキビ、大麦、玄米といった穀物であり、原料由来の有効成分と醗酵微生物の組み合わせによる抗酸化性物質生成の機構の探索が重要であると考察した。

 

サトウキビとキビ酢

 

本研究では、サトウキビを原料として用いられている奄美地方のサトウキビ酢に注目した。サトウキビ酢の原料であるサトウキビの起源は、インドのガンジス川流域の原産で、紀元前4世紀に地中海地域にもたらされ、日本には慶長年間に中国の福建省より奄美大島に渡来したといわれている。サトウキビは、イネ科の植物で和名が甘蔗(カンショ)、英名がsugar cane、学名がSaccharum officinarum L. で記されている。生産地は世界の栽培面積1300万haのうち、中南米と熱帯アジアで 85%強を占めている。日本では沖縄県と鹿児島県南西諸島の基幹的な特産作物として約3.4万haが栽培されている。主なサトウキビの用途として、食品的利用としては。茎を圧搾し蔗汁から砂糖が作られている。工業的利用としては、搾粕は燃料、人造版、パルプ、飼料等に用いられている。さらに、葉は飼料、敷料に、また廃蜜糖はアルコール、アセトン、ブタノール等の原料に利用されている。このように、工業的利用には広く利用されているところがあるが食品的利用としてはまだ未開発なところがあり、食品として大いに利用できる部分がまだあると考えられる。

奄美地方は日本でも有数の長寿地方であり、沖縄と九州の中間に位置しお互いそれぞれの文化を吸収しながらも、独自の食文化を形成してきた。これらの食文化を考察すると、気候温暖であるため太陽光線を豊かに吸収した亜熱帯の作物果実栽培や、山・海の幸など多くの恩恵から来る特徴を持っている。このように奄美地方は長寿につながる特徴的な食文化があり、沖縄地方と供に日本の長寿地方になっていると考えられる。

長寿と食文化から考察すれば、奄美地方は沖縄や九州地方とは異なったものがある。奄美地方は日本への最初のサトウキビ伝来の地であり、サトウキビを原料とする多くの製品が家内工業の規模で温存されている。そして、家庭規模で作られてサトウキビからの食材を日常的に摂取してきた。サトウキビ酢、黒糖焼酎、黒糖、更には黒糖やサトウキビ酢を原料とした健康的な食品がみられる。

サトウキビの研究としては沖縄地方における研究が進んでいるが奄美地方におけるサトウキビの研究は今後の課題である。サトウキビには古来からの品種のほかに現代栽培工学に追究した品種等、さまざまな品種がある。また、同じサトウキビ品でも生産される場所によりサトウキビに含まれる成分は大きく異なることが考えられる。 400年の歴史を持つサトウキビ栽培によりつちかわれた奄美地方伝統のサトウキビ酢は、良質なサトウキビ、自然水、奄美大島の空気中に浮遊している自然界からの酵母菌、酢酸菌の働きと南国ならではの湿度と気温によって天然醗酵が行われていることが重要な要因であると考えられる。

 


サトウキビ、キビ酢の抗酸化活性とヒト白血病細胞増殖抑制

 

本研究は、奄美地方の「サトウキビ」に由来する機能性食品因子に注目し、奄美サトウキビ酢、サトウキビに含まれる抗酸化性物質の解明と、そのヒト白血病細胞にたいする増殖抑制効果について研究を行った。更に本研究はサトウキビの機能性食品への応用、サトウキビを原料とする、新しい健康食品開発への提案を目的とした。

まず最初に、サトウキビ、およびキビ酢の抗酸化活性成分の探索を行った。その結果、サトウキビ、キビ酢には強い抗酸化活性成分が認められた。有用成分の概略的な解析実験から、サトウキビに含まれている天然の抗酸化活性成分(ポリフェノール類と想定)が、キビ酢の発酵工程で、種々な微生物によって変換されていることが考えられている。即ち、キビ酢の抗酸化活性成分は、サトウキビ由来の成分が発酵変化したモノであるという、考え方である。

この活性成分は、ヒト白血病細胞の増殖を顕著に抑制するという興味ある現象を観察した。サトウキビ、キビ酢の抗酸化活性成分がどのような「からくり」でヒト白血病細胞の増殖を抑制するのかは今後の研究課題である。

 

奄美独自のサトウキビ食文化を考えよう

 

サトウキビは、強い太陽光線のもとで元気に育つ植物であるから、太陽光線のストレスに立ち向かうための、多くの有効成分が生産されていることは充分考えられる。換言すれば、サトウキビ自身が強い太陽光線のもとで、元気に生きていくために必要な有用成分が、実は奄美における「古来からの健康食品の成分」であった、と考えることができる。

奄美においては、サトウキビ由来のほとんどの成分を濃縮した「黒糖」、その成分を土着の微生物によって自然発酵させた「キビ酢」、さらには、サトウキビから発酵生産する「黒糖焼酎」など、サトウキビ食文化の重要性は改めて評価しなければならない。

まだまだ、サトウキビ食文化の再評価に繋がる「奄美の知恵」を発掘する必要がある。

「白砂糖」生産のためのサトウキビの時代は、日本においてはすでに終了している。しかし、サトウキビは、多くの重要な健康因子を含む「健康食品」である。

キビ酢、サトウキビの健康食品成分の研究によって、こうした観点から奄美のサトウキビ食文化を見直し、それを活用する健康情報発信が出来るときに,奄美の新しい発展が期待ら得されると考えている。

南国の植物は元気印である

 

もちろんこのような考え方は、サトウキビのみのとどまらない。強い太陽光線のもとで、元気に生育する多くの植物(作物)には、種々な健康によい有用成分が含まれていることが期待される。たとえば、ヨモギにしろ、ゴーヤにしろ、南国の強い太陽光線のもとで生育した植物は内地のモノとは違って健康成分の「すごさ」が注目される。

また、インドネシアやタイなどの熱帯植物には、身体によいものが多くある。それらはその国における健康作物、薬膳植物として注目され日常の料理に活用されている。こうした植物は、豊かな有用成分を含んだ有用食素材として注目されているのも、このような南国の植物の「すごさ」の考え方によっている。

奄美地方は沖縄文化の影響を受けているものの、沖縄とは異なった食文化に基づく健康食品素材を開拓することが出来れば、奄美の地場産業発展に寄与すると考えている。それの一つがサトウキビではないだろうか?

 

なお、この研究の内容は、すでに平成14年3月27日、仙台市で開催された2002年度日本農芸化学会全国大会において発表した。そして、その後の1年間の研究を加えて報告したものである。


奄美産サトウキビ酢による活性酸素消去活性及び腫瘍細胞増殖抑制効果

 

一結果−

 

◎サトウキビ酢のメタノール40%画分に高い活性酸素消去活性が認められた。(1)

◎メタノール40%、60%画分は各種ヒト白血病細胞に対して増殖を抑える効果が認められた。(2,3)

◎メタノール40%画分は、各種ヒト白血病細胞に対して濃度依存性が認められた。(4)

◎メタノール40%画分による細胞の形態変化が認められた。(5)

◎正常細胞に対しては増殖を抑制する効果は認められなかった。(6)

 

きび酢資料1

きび酢資料2

きび酢資料3

きび酢資料4

きび酢資料5

きび酢資料6

健康食品と「活性酸素」

山梨大学工学部

教授 三村精男

「活性酸素」とは?

酸素はモノを燃やす力があり、空気中に約21%含まれている。我々地球上の生き物は、動物も植物も、酸素を効果的に使ってエネルギーを生産して活動している。地球の30億年という大昔には酸素はほとんどなかった。しかし、ある種の植物(ラン藻類)が出てきて、次第に地球は酸素を含んだ大気となっていった。

この時、古代の生物は酸素を使って生きる「術」を身につけた。だから我々は酸素が好きな「好気性生物」である。つまり酸素を活用して生活している。ところが酸素はモノを燃やす力があるから、我々の身体を少しずつ「酸化」(つまり鉄が錆びるように我々の身体の成分も錆びていく)する危険も取り込んでしまった。

研究によると、我々が呼吸する吸気中酸素の約2%は、身体の成分を「酸化」させる力が非常に強い「活性酸素」になっています。もちろん、このような危険な「活性酸素」を掃除するスカベンジャーが、我々の身体に備わっているから、心配はいらない。そして、「活性酸素」は有用な働きもしてくれている。たとえば、我々の身体に感染した「ばい菌」を殺してくれるのも「活性酸素」である。ちょうどバランス良く、我々の身体の「活性酸素」の働きが行われているときには問題は全くない。

 

活性酸素とストレス社会

 

しかし、現代生活は「ストレス」の多い社会であるから、「ストレス」によって、知らず知らずのうちに「活性酸素」を過剰に発生させて、身体の成分を「錆びさせて」いる。「活性酸素」はガン、心臓病、脳卒中などの3大成人病のみならず、多くの病気(疾病)や老化を引き起こしている。

最近までの、研究によって、多くの病気の最大の原因は体内に異常に発生する「活性酸素」が何らかの形で関係していることが考えられてきた。我々の身体は、約60兆個の細胞からなっているが、もし重要な臓器や器官の細胞が「活性酸素」によって「錆びる」と、その臓器や器官は正常な働きが出来なくなってしまう。このような状態がゆっくりと年齢と共に進んだのが「老化」である。一方病気(疾病)は急激に進んだ状態といえよう。

このように「活性酸素」は良い面(善玉)と悪い面(悪玉)をもった両刃の剣である。

 

健康な生活のためには?

 

ですから、やたらに「活性酸素」を身体の中で発生させないような生活習慣を身につけて生活することが重要である。ところが、現代社会は「ストレス」の多い社会である。一方、最近の食生活は洋風化しており、科学的に言えば「活性酸素」に襲撃されやすい体質になりがちである。このために、最近では「日本の伝統的な食事」が注目されています。

それは、ちょうど奄美や沖縄の長寿食に通じる料理である。これらの地域では「活性酸素」を考えることもなしに、すばらしい食文化を生活の「知恵」として受け継いできています。たとえば、南国の強い太陽の光によって生産された「抗酸化成分」を豊富に含んだ野菜や果物やサトウキビ、海藻や薬草を日常の食事に使ってきた。

こうした植物や海草類にはカロチノイド、フラボノイド、カテキン、ポリフェノール等の 「活性酸素」の掃除屋さん(スカペンジヤー)が豊富に含まれていることが分かっている。サトウキビやキビ酢にも強い抗酸化性成分(スカペンジャー)が含まれていることは我々の研究が明らかにしています。


 

奄美地域農業と長寿食文化の融合の知恵を発信しよう

 

ですから、現代生活を健全に過ごすためには、「活性酸素」をうまく掃除する食生活が重要になってきます。そのためには長寿地域である奄美の「長寿食文化」に注目して、その食文化を生活の知恵として活用する事が大切です。

ここに、現代の新しい産業の芽(アイデア)があるように考ます。奄美の伝統的な長寿食文化を研究し、食品素材などの地場産業商品として開発することは、「奄美の知恵」を活用することです。その知恵を確かなモノとして、奄美から情報発信しなければなりません。

農林水産省農林水産政策研究所の嘉田良平氏の論文にあるように、新しい長寿社会のスローフードの概念に立脚する、21世紀の食生活を考えた商品が求められています。

奄美地域農業と奄美長寿食文化を融合して、新しく奄美から発信するスローフード健康産業を起こそうとする「奄美かけろま長寿食文化研究会」の基本理念は、これからの社会にマッチしているのです。

 

長寿資料